立夏

スペシャルデイ』
昨日も今日も
はじめてのことだらけ!
おいしくするためには
手段を問わないと
生クリームを
出来心で入れてみたばっかりに
ボソボソ──
バサバサ──
なめらかな口当たりは
いったいどこへ?
リッカは特訓中。
それにしても
おかしいね?
毎年この時期は
続けていることだし
お菓子を作るのだって
ときどきある!
なのになんでいつも
慣れていない子供みたいに
新しい失敗、
普段はしたことのなかった
新しい挑戦をさせる
悪魔のささやき──
へんな思い付きを
次から次へ
試してみるのだろう!?
うまくいくわけないって
わかるはずなのに──
もしかして
突き進むことを止めないこれが
恋する乙女の
秘めたパワー?
それとも
そそっかしいリッカの
ただの迷走?
よくわからない、
わからないけど──
今日もリッカはキッチンに立って
おねーちゃんたちにアドバイスをもらい
妹たちを導いて
うまくいくかどうか試している。
そんな感じ!
ついに本番が近づきつつある中、
明日は休日──
したいこといっぱい
思い浮かぶけど
なにが
できるかなあ?

吹雪

『ボーダー』
むにゃ……
おはようございます。
はい、目を覚ましています。
体調は──
万全とは言えません。
十分な睡眠時間を取り
適度な運動と
バランスのいい食事が
健康の基本──
何をするにも
必要なのは体力と聞きます。
私の家族が言うのですから
たぶんそうなのでしょう。
その視点から見ると
現在の私は
最高のコンディションであるとは
考えられない──
つまり今夜は
早く眠らなければいけません。
しかし──
あらゆる論理が
私を眠らせようとしているにも
かかわらず──
そうできない理由があるような
気がしている──
もうひとつ懸念事項があります。
生物の成長力や、
技能が上達する速度に
違いがあるのは
小雨姉の育てる植物を見ていても
妹たちからも学ぶことであるのに
それであっても──
今日、帰宅してからのスケジュールは
ある程度埋まっている部分が多いので
もし用事がある場合は早めに連絡をもらえればと思います。
おやつも夕凪姉に譲る約束をしてあります。
おそらく──試食のカロリーが充分であるはずなので。
体調が万全でないほど
睡眠が足りていない理由は
ここで話すことはできませんが
心配はしなくても大丈夫──
私ももう二年生。
大きいお姉さんです。
自己管理は学習済みだと判断しています。
だからこれくらいは
まだ大丈夫──
そのはずです。

虹子

『虹子オンライン』
にじこ
きいちゃった!
でんぱでつなぐ
そのさきには
えらいハカセ
じょしゅがいて
こわれたばしょを
なおすデータを
なんでもおくってくれるの!
ふぶきちゃんからきいたの。
すごいね、
ふぶきちゃんは
ものしりだね。
でも、どうやって
でんぱに
つなぐのか──
それはしらない。
きかいを
アップデート
するように
チョコをつくるわざも
みについたらいいのになあ。
じゃなかった……
みについたら
とてもよいのですが。
だった。
たしか!
ふぶきちゃんも
しらないことがあるの。
ハカセがいるのは
しっているが
どうやってつなぐかしらない!
そうなの?
じゃあ、にじこが
おしえてあげよっかな。
にじこも
ふぶきちゃんもしらないことでも
なんでもしってる
おにいちゃんが
かくしているのだと!
にじこのだいすきなおにいちゃんと
あそぶふりをして
おしたり
ひっぱったりすると
もしかしたら
ぽろんとでてくるよ。
ためしてみて!

小雨

『コールドライト』
暖かい日と
寒い日を行ったり来たりしながら
春は近づく。
今日は寒いほうの日でした!
このごろは
膝の上にのせて
読み聞かせをしようとしても
暑がり汗をかきながら──
勢いよく逃げていく
小さな子供たち。
ぽつんと日向に
取り残されて
寂しいのと、
確かにその通り
暖かいのが
わかるからと──
そのままつい
うとうと眠くなることもあります。
かと思えば
今日くらいには外の強い風が
どこかから家の中に吹き込んでくるような
びゅうびゅう激しいうなり声。
みんなの方から
小雨の膝におしりに集まって
どうしようか
困るほど──
長い冬の間、
こうして暖を取ることを
忘れないようにしていたんだもの。
もう少し寂しかったり歩きにくかったりするのでしょうね。
でも、よかった。
小雨があんまりつまらない話ばかりするから
逃げられるのかもと不安だったから──
植木鉢にやっと芽を出した
小さな緑のことだとか
繕い物のことだとか──
お兄ちゃんを遠くから
見つけた時のことだとか。
お兄ちゃんは──
小雨のこんなお話のことは
つまらないと思う?
しっかり根を張った
強い芽の
すごい力のこと──
それを見つけるたびに
新しい特別な発見をしたようで
小雨は感激して
いつも誰かに話を聞いてもらえるのが
うれしい──
困ったものですね。

観月

『暗い夜を』
さむいさむい。
昼はもうずいぶん
汗ばむくらいなのに
夜の冷え込みはまだまだ厳しいの。
あったかく身を守るよう
心掛けねば──
風邪でもひいたら
たいへんじゃ!
立夏姉じゃなどは
ぷるぷる震えて
ずっと昼ならいいのにな!
そう願うようじゃな。
お出かけの時間をとりたいと──
今の世の中では自由にいかぬが
近くを歩くだけでも良いものだそうで
海晴姉じゃなども健康のためにお付き合いと立ち上がる。
ころころ楽しそうに
おもしろがって
みんなでついていく。
うむ、昼が長く続くというのも
なかなかいいことが多い。
でも、寂しく暗く
寒くて凍える夜に
どこか湿った洞穴や草叢に隠れて潜まねば
とてもいられぬような小さく弱きものが
常世にはたくさんおる。
わらわも家族のみんなも
日が暮れねば
帰る時刻も見つけられぬ──
休むこともできぬ。
ふと目を開けて
窓の向こうの夜空に
小さく灯るあかりを見つけることもできぬ──
並んだ星の光に
眠れぬ夜の空想を広げることも──
立夏姉じゃや海晴姉じゃだって
汗をかいて帰ってきて
暗いお風呂にかわいい電気をつけ
みんなで入るのが大好き。
わらわだって、もちろん──
ううん、しかし昼の明るいお風呂もたまにはいいものかの。
心は迷うのじゃ──
それにしても
今夜もまた本当に寒さはきびしい。
みなが穏やかに過ごす静かな闇の中──
母に抱かれるような安らぎのうちに
家族みんなが過ごしているようにと思う。
願いをかける星なら今夜もきらきらまぶしいぞ。

ヒカル

『奥義』
今日も家の中は賑やかだった。
お兄ちゃんに遊んでもらいたい妹たち、
おなかをすかせて雛が鳴くような声、
いたずらをする子たち、
世話を焼く子たち、
なんでもいいからかまってもらいたい子たち。
オマエも毎日
大変だな!
男だから
まだいいのかな?
私も鍛えているほうでは
あるから
手伝えることがあったらいいんだけど──
やっぱり人気があるのはお兄ちゃん。
優しそうな目が
いいのかな。
この家に来た時に
ああ、きっと
まだわからないことが多い相手だけど
心配いらない
気がするな──
そう思ったあの時の目は
まだ変わらないままかな?
どれどれ?
やっぱり人間を観察するときは
なんといっても
目を見るといいよ!
って、聞いたこともある……
剣を構えた達人の
面を透徹して突き刺さるような
眼光の凄まじさ。
全身から立ち上る気迫。
遠当ての合気と
音もなく地を滑る足さばき。
家族を思うことの達人も
目つきだけでなく
一挙一動がまさにと感じさせるものであるに
違いない!
あ、私も家族なら
達人の技を知る機会があるということ
だろうか……?
ぜひ一手お手合わせ!
なんてね。
明日も大変だろう、
きっと頼ることも多いと思うから。
ゆっくり休んで。
そうだ、疲れを残さないためのマッサージなら
達人じゃないけど
私も多少は心得がある──
腕を見せてやってもいいぞ!

『秘密』
ころころ
ちょこちょこ
とことこと──
小さな妹たちが
私の後ろを歩いて
追いかけてくる。
こういう眺めを
前に目にしたことがある気がするな。
あれは確か
蛍が歌っている後ろを
声を合わせて歩いていた時だとか
夕凪が学校の工作を見せようとして
廊下を走っていた時などだ。
その時に夕凪は
逆に追いかけ回すようになったし──
蛍もなぜか一人一人を捕まえ
振り回して喜ばれたような気がする。
私のポケットに穴が開いて
お菓子がボロボロ零れ落ちた
あの時から
おせんべいやチョコレートを求める足音が
いつまでも終わらずに続く──
もうお菓子は
ポケットの中にないのにな。
失われた目的を追い求める
無限と同じ意味の旅は
このまま──永劫の時を刻むはずだった宇宙が
熱力学第二法則に敗れ去るまで
我が家の廊下を歩み続ける。
すべての
悲しい彷徨はいつも
このようにはじまり
果てを知らないのだ──
もしも天から
不思議な恵みが降ってきて
この手を満たすなら
ひととき足を休めることくらいは
できそうなものなのに。
その場合は私も
穴の開いたポケットを確かめるふりをして
近寄ってきた妹をつかまえたほうが
絵になるのだろうか。
でも何か別の話になっている気がするな。
お菓子はなく
しかし野望があって
情熱の温度は上がり──
汗をかき始めたから
チョコレートのような溶けやすいものは
降ってこないほうがいいのかな?
天使に早く──教えなければいけないな。